房室解離?等頻度房室解離?完全房室ブロック?心電図用語について考える
完全房室ブロックを調べていたら、房室解離と言う言葉に出会った方向けの記事です。そんなマニアックな路線で考えてみましたが、中々そんな人いませんよね。
ちなみに心電図検定の公式テキストにも出てくる心電図に関わる用語です。もし検索で辿り着いた人の少しでも参考になれば幸いです。
今までの記事同様です。あくまでも心電図用語の説明なので、機序や疾患に対することなどの詳細は成書にて確認することをおすすめします。
房室解離?等頻度房室解離?完全房室ブロック?心電図用語の使い方を考える
まずは以下の注意点を参照のうえで内容を御確認お願いします。少々ややこしい説明が故に必要な事です。
最初に房室解離についての注意点
房室解離の定義は成書によって様々です。今回は下記の本を参考にして記事を執筆しています。最終的には自身の信じる成書での房室解離の意味を確認お願いします。
房室解離。等頻度房室解離。完全房室ブロック。キーワードは房室解離と言う状態です
まずは房室解離と言う状態を考えていきます。
心房と心室の興奮が互いに独立しているとき”房室解離”といいます。
出典:2007年 文光堂 ディルデュービン,Dale Dubin,村川裕二 『図解心電図テキスト-Dr.Dubin式はやわかり心電図読解メソッド』P154より引用
レートの異なるQRSとP波が互いに干渉しあうことなく出現することを,”房室解離(AV dissociation)”とよびます。房室解離は完全房室ブロックによるものが多いですが、この場合あえて房室解離という用語をもち出すことはありません。
出典:2007年 文光堂 ディルデュービン,Dale Dubin,村川裕二 『図解心電図テキスト-Dr.Dubin式はやわかり心電図読解メソッド』P187より引用
とてもわかりやすく記載されているので引用させて頂きました。
そんなわけで上記を参照にしつつ、房室解離と言う状態をざっくり言葉で伝えると以下です。
もし心電図が好きな方であれば、上記の房室解離の説明をどこかで聞いたことありませんか。
そうなんです。不整脈の完全房室ブロックの説明で聞き覚えのあるはずです。
完全房室ブロックは、完全に心房と心室の連絡が途絶えている不整脈です。なので心房の動きと心室の動きがバラバラです。心電図上で確認するにあたっては、PとQRSが連動していないのがポイントです。
上記の引用文でも書かれていますが、あえて完全房室ブロックの際には房室解離をもち出すことはありません。と書かれています。
せっかくなので持ち出してみようと思います。
房室解離と完全房室ブロックをもう少し考えてみます
房室解離はあくまで心臓の状態です。心房と心室の動きが解離している状態です。完全房室ブロックは不整脈の名前です。となると、少し言葉の整理をしてみます。
と整理すると少しイメージがつくかと思います。
ちなみに房室解離の状態が起こっている不整脈の代表例は完全房室ブロックですが、他にも房室接合部調律や心室頻拍(VT)があります。
房室接合部調律は房室接合部付近からの刺激です。心室頻拍は心室側からの刺激です。両方ともに心房の動きと連動していません。言葉で考えると、心房と心室の動きが解離しているので、心臓の状態としては房室解離です。
房室解離の状態を基準とした言葉の使い方を考える
房室解離と言う言葉は中々の曲者です。そんなわけでもう少し整理していきます。
房室解離は房室伝導が途絶(心房からの刺激が心室に伝わらない)していることです。心電図上ではP波とQRS波は連動していません(動きがバラバラとも言います)
上記の前提条件から今度は心電図波形を確認します。
房室解離の状態での不整脈の種類はPとQRSの数で言葉の使い分けをします。ざっくりと説明すると以下になります。
*下記【】内はPとQRSの数の関係です
パターン①完全房室ブロック 【P>QRS】
図78○Ⅲ度房室ブロック
出典:2009年 医学教育出版 できちゃった編集委員会,村川裕二 P70より画像引用
房室解離の状態です。心電図上ではPの数がQRSの数より多いです。
不整脈としての呼び名は完全房室ブロックです。
パターン②房室接合部調律 【P=QRS】(ほぼ等しい)
問題18 解答:②等頻度房室解離
出典:2018年 改訂3版 心電図検定公式問題集&ガイド – 受験者必携! 2級/3級 P30より画像引用
(等頻度)房室解離の状態です。心電図上ではPの数とQRSの数がほぼ一緒です。
不整脈としての呼び名は房室接合部調律です。
パターン③心室頻拍 【P<QRS】
房室解離の状態です。Pの数がQRSの数より少ない場合です。
不整脈としての呼び名は心室頻拍(VT)です。
下記にてわかりやすい波形がありますので気になる方は参照してみてください。
まだまだ知りたい房室解離と言う状態の意味
あまり看護師間の話合いで出てくることが少ないであろう房室解離の状態をこれでもかと紹介していきます。
等頻度房室解離とは何か?
実は房室解離の言葉の使い方がもう一つありまして、PとQRSの数がほぼ一緒の場合を等頻度房室解離と呼びます。
等頻度の解釈はPとQRSの出現頻度がほぼ一緒です。もう少し詳しく書くと、洞結節の興奮頻度と房室接合部調律の出現頻度がほぼ等しい場合です。
上記で説明したパターン②房室接合部調律【P=QRS】が当てはまります。
房室解離があれば心室頻拍である、と言う話
房室解離の状態である不整脈に何故に心室頻拍を含むのかと言う問題の考え方です。
心室頻拍を別な見方で考えれば心室期外収縮の連発です。大事なのは心室が勝手に動いていると言うことは心房の動きと連動していないのです。
なので心房の動きと連動していない心室の動き。房室の動きが解離していると言うことになりますので、房室解離と言う言葉が使用出来ます。
*他にも心室頻拍を診断する際は、頻拍中の洞捕捉などもありますが、それには今回触れません
房室解離の状態を理解しても、結局大事なのは不整脈が出たときに速やかに報告できることです
そもそも看護師が房室解離の状態を理解しても、使用する場面は非常に少ないです。
上記のように、看護師は不整脈がわかることが大事です。私達看護師は不整脈の治療ではなく、あくまで観察をして医師に指示を仰ぐ立場です。
この一連の流れに房室解離と言う言葉を看護師が使用する隙間はないのです。
看護師が房室解離を考えるのは患者さんの容態が落ち着いたあとに、モニター心電図を見返すときだと思います。あまり臨床で使用する言葉ではありませんが、この記事が少しでも心電図知識の参考になれば幸いです。
以上。まる(@maru02ns)でした。
更に詳しく房室解離について知りたい方向け
今回の記事でわかりにくい心電図波形部分の補足として築島先生が解説してくれています。
ECG-359:answer:その1 まず 等頻度房室解離= 心電図検定試験:傾向と対策 Q.007 =
ECG-359:answer:その2 房室解離のその他= 心電図検定試験:傾向と対策 Q.007 =